クマ女

 くもりである。おだやかな朝だ。風もやんだ。
 週末が妙に暖かかったので春と勘違いしたのか、白い花の芽をぷっくりとふくらませたハクモクレンは、昨日の寒風にすっかりまたその身をちぢこまらせた。

 ぼくはまだ外泊前に輸血した赤血球が残っているのか、スタスタ歩けている。月曜日の採血ではヘモグロビンが十以上あった。これが七くらいまで下がってくると貧血がひどくなって、フラフラノロノロと幽霊歩きになるのだ。
 しかしこう元気だと、みんなからシヌシヌサギだと思われても仕方ない。余命二か月だ、三か月だと言ってはお見舞いをもらって、のうのうと生きている。じっさい「あなたは三か月後には死んでしまうのですよ」と言われているのだが、なんだかまだあまりその実感がない。

 看護婦にひとり、クマのような女がいる。
 後ろから見ると、肩幅とウエスト幅と腰幅がみんな一緒で、髪はザンギリに切っただけのような髪型をしている。一見するとクマのようなのだ。
 このクマ女が、おそらく柔軟剤か何かの匂いだと思うのだが、いつもぷんぷんさせていて、それがヒジョーに臭い。匂いの好悪はひとそれぞれだから、クマはいい匂いだと思っているのかもしれないが、ただでさえ柔軟剤の匂いが苦手なぼくにとっては悪臭にしか感じられない。
 クマ女が担当の日はとても憂鬱である。近くに来るたびにその匂いを嗅がされる。半径五メートル以内に来るとぷ~んと匂ってくる。そして点滴などの処置の際はさらに至近距離まで来るので、顔をそむけ、息を止めて耐える。

 昨夜がクマの夜勤担当であった。今は点滴がなくなったので被害は少なくなって助かっているが、先日までは夜中まで点滴至近距離被害がひどかった。
 クマは当初ぼくらを担当するグループにはいなかった。それがいつの間にかメンバー替えがあったようでこちらに来るようになったのだ。
 またメンバー替えであちらに行ってくれないかと思うのだが、しばらくメンバー替えはなさそうである。したがってクマ害もしばらくはおさまりそうもない。それに耐えつつ、早く日勤者と交代の時間にならないかと待っているのである。