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元妻現る

「あ、思ったより寒くないな……」
 そう感じた。
 夜の間に雨でも降ったのだろうか、空気がやさしかった。

 朝六時。起床時間に目が覚めた。いつものように体温、体重などを計ってから、朝のイップクをしに外に出た。体調はわるくなさそうである。ミズキの下に座って、ぼくは昨日のことを思い出していた。

 昨日はびっくりした。
 妻――彼女とはいまだ籍は入っていないが、もう長いこと一緒にいるし、彼女と呼ぶような浮ついた感じでもないので、あえて妻と呼んでしまう――が昼前に見舞いにやってきた。そしてその後、九州にいるはずの別れた三番目の元妻が突然、何の前触れもなくやってきたのだ。彼女とは別れたきりずっと会っていなかった。
 つまりぼくのベッドの脇に、三番目の元妻と四番目の現妻とが並んで座っているという図になってしまったのである。
 こうなると男はもうだめである。しどろもどろのおろおろ状態で何とか互いを紹介した。さいわい平和裏に会話が進んだので事なきを得たが、頼むから来るなら来ると、事前にひと言知らせてもらいたいものである。

 元妻も、ずっとこの日記を読んでいて、いつか行かねばと思い続けていたようである。
 女というのは男と違ってこういうはげしくビミョーな状況でもすぐに仲良くなれるものである。互いに腹の底の本心はどうだかわからないが、少なくとも表面上は。
 三時前に元妻が、そろそろ帰ると言った。彼女は九州福岡から飛行機で東京往復を敢行してきたのだ。すると現妻も彼女(元妻)が心配だから途中まで送ると言って二人並んで病院を後にした。

 二人が去った後、ぼくはぐったりとベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまった。
 しどろもどろのおろおろではあったが、元妻と話ができたのはよかった。彼女との間には子供が一人ある。僕が死ねば相続などの問題が発生するから、あらかじめ話しておく必要があったのだ。

 まあ、昨日はそんな一日であった。
 現妻とはゆっくり話ができなかったが、それはまたいずれ。
 ともあれ、しどろもどろのおろおろな一日であった。