谷川くんがやってきた

 雪の翌日は雲ひとつなく晴れた。
 雪の翌日の晴れというのはいいものである。雪が光を反射して、景色はまぶしいほどに明るい。前夜から凍り付いた道路は陽の光で溶けだし、日陰にわずかに雪が残っている。時おりザザッと民家の屋根の雪が滑り落ちる。平和そのものである。

 昨夜、友達の谷川くんがひとりでやってきた。「これから行きます。七時半ころに到着します」と連絡があった。来るはいいが、面会時間は八時までである。三十分ほどしかいられないではないか。
 それを伝えると、「承知しています」と。
 なんということか。彼は三十分しかいられないことを承知で、おそらく仕事を終えてから食事もせずにやってくるのだ。ありがたさよりも、申し訳なさが先に立ってしまった。
 果たせるかな七時半に彼はニコニコとやってきた。ぼくは少々体調がすぐれなかったのでベッドの上で失礼してしまったのだけれど、ほんとうに三十分ほどだけあれこれ話をして、、面会終了の館内放送と共に彼は帰って行った。ベッドの上からではあったが、ぼくはその後ろ姿に深々と頭を下げた。
 起こしていたベッドの背を平らにして、ふうと大きく深呼吸をした。そして天井を眺めながら「ありがたいことだなあ」と、しみじみ感謝の気持が湧き上がってきた。
 谷川くんのおかげで、いい一日であった。