ハクモクレン

 すっかり晴れて、病棟に切り取られた四角い空に白い雲がぽっかり浮かんでいた。
 ミズキの下も久しぶりに寒さがやわらいで落ち着いていた。木漏れ日が暖かでいながら、空気がキンと冷えて頬に気持ちよかった。時おりどんぐりがカランカランと落ちてきた。

 このミズキが、じつはハクモクレンであることは前にも書いたと思うが、もうだいぶ葉っぱも枯れ、落葉のはじまりである。
 四月に入院して以来、ぼくは常にこの木と共にあった。この木の下に腰を下ろすとき、いつもぼくはふっと自分を取りもどすことができた。唯一の友だちであった。
 春から夏にかけてはその勢いにみちた葉にずいぶん元気をもらった。夏の蝉の声、秋の虫の声など、この木を取りまく森のたたずまいにもずい分癒されてきた。

 そのハクモクレンも、今は葉は枯れ、冬支度に入り、もう元気を分けてくれることはない。やがて葉をすべて落とし、冬を乗り越え、また来年の春に花を咲かせ葉を茂らせるのだろう。

 残念ながら、その頃ぼくはもういない。
 来年の花を見られないのは残念だが、今までありがとうという気持ちである。
 そしてぼくはもういないが、来年も春になったらまた花をつけ、夏になったら葉を茂らせる。そう思って見ると、枯葉の枝木もまた生命力に充ちている気がする。そしてその次の年も、そのまた次の年も、ぼくがいなくなった後、何年にもわたってそうやって生きながらえてゆくのだと思うと、この木がぼくの希望であるとすら思えてくる。ぼくの気持ちのほんの一部でも受け取って、ここで長く生きていってほしいと思う。
 ぼくはあとどのくらいこの木の下に通えるかわからないが、一日でも長く通い続けたいと思うのである。