あせらない、あせらない

 朝の日の光がずいぶんひくくなった。
 ミズキはすっかり葉を枯らして、ゆっくりと寒い冬にむかって準備をしているようだ。森はどんぐりだらけになっている。
 ほんとうは、今のぼくはここへ来ることは許されていないのだけれど、ミズキは友だちだし、森はぼくの唯一の憩いの場なので、毎日一回は禁を犯してやってくる。
 朝の光を浴びること、朝の空気を思いきり吸うこと、木々の呼吸を感じること、それらが身体にわるいわけがない。

 昨夜は、早い時間に眠りについてしまったせいか、二時ころに目が覚めてしまい、以来、一時間ごとくらいに覚醒するという、なんとも気持ちの悪い睡眠だった。

 移植の経過の方は、順調と言いつつも今日で生着から三週間目、ここまできて血小板がさっぱり上がってこないのは、さすがにちと問題であるようで、今日のブチョー回診でも、ブチョー先生がしばらく腕組みをして考え込んでしまった。そして、「みんなでカンファレンスしながらやっていきますから」と。おいおい大丈夫なんだろうなブチョー先生さまよ。
 ともあれなるほどまだまだ二合目である。先は長い。

 今朝の採血で血中にサイトメガロウィルスというのが確認されたそうだ。肺や内臓に障害を起こしやすいウィルスらしいが、ごく初期なので、こちらは薬で薬でちょんちょんと押さえてしまえるらしい。

 先日、看護婦のアヤちゃんが点滴をぶら下げながら、
「焦らないことですよ」
 と、ぽつんと言った。
 そうか。焦ってはいけないのだな。
 なにしろまだ二合目なのである。



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