衝撃! あまりに殺生な

 本日の好中球数、千七百。
 口内炎はほとんど治り、口から食事がとれるようになってきたので、痛み止めのモルヒネと、栄養の点滴は今日までで終了になるようである。
 さらに主治医は、ぼくは間もなくこの部屋を出て準クリーン管理になると言った。それは待ちに待ったことでありがたいのだが、それについて彼は衝撃的な事を告げた。準クリーンは元の749号室ではなく、大部屋に空気清浄機を据え付けるスタイルで考えていると。大部屋は一般病室で、六人部屋である。
 それはまあいいとして、さらにおそろしいことに、そちらに移っても自由に出歩ける範囲はこの七階だけだと。それでは売店にもミズキへも行けないではないか。そこまでまた自由に行動できるようになるのは、もう退院直前だと。
 そしてさらにさらに、禁煙については、最低でも退院後免疫抑制剤を服薬している間――半年以上――は吸ってはいけないという。すべては肺炎等の感染症の予防だそうだ。

 主治医のその言葉を聞きながら、ぼくは意識が遠のきかけた。後頭部をバットで殴られたような衝撃を受けた。そんな、あまりに殺生な……。
 ここまでこの部屋に隔離されてからひと月あまり、ここから出さえすればまたミズキに行ってタバコが吸える……、それだけを希望に一日、また一日と耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んでここまできたというのに。それはぼくが勝手にそうだと思い込んでいただけだったようだが、それにしても退院後も半年以上というのはひどいではないか。
 ぼくは心からタバコを愛している。こんなうまいものをどうしてやめられようか。やめようなどという気になれようものか。そして、はたしてぼくは、タバコをやめてまで生きていたいのだろうか。タバコを吸わない人には、きっとこの苦しみと葛藤はわからないのだろうなあ。たばこ吸いに「タバコを吸うな」ということは、健康な人に「口からご飯を食べてはいけませんよ」と言うようなものなのである。スイーツ好きの女に、「甘いものは一切禁止です」と言うのにもひとしい。

 ぼくは、あまりの衝撃に地獄の底まで沈み落ちてしまいそうな心をデパスで何とか引きずりあげ、力なくベッドに横たわったのであった。