アメリカンドッグ・ケチャップマスタード戦

 ものが食べられない、飲み込めないので、絶食の日々なのだが、まったくなにも口にしないと夜と昼のさかい目とか、午前と午後のさかい目などがつかなくて、昼も夜もなくだらりだらりとしてしまう。そこで看護婦さんに平身低頭して、売店で何かしら食べ物を買ってきてもらうことにした。

 何を食べようか、何なら食べられそうか迷った挙句、どら焼きと牛乳という組み合わせを思いついた。しょっぱいものはシミてだめだと思うが、甘い物ならなんとかなるのではないか。案の定、飲み下すのははげしく痛かったが、口の中では大丈夫だった。
 これに気をよくしたぼくは、無謀にもその次に、アメリカンドッグ・ケチャップマスタード付きに挑戦した。

 最初のひと口はさすがにケチャップマスタードは遠慮した。しかし大口をあけねばほおばれない。大口は至難である。唇の端がぴきぴきする。口中あちこちの痛い部分に歯が当る、唇が当る。しかし激痛を堪えてなんとか噛みちぎり、咀嚼し、嚥下した。なんだ、やればできるじゃないか。
 つぎにケチャップマスタードをかけてみた。こうなればヤケである。どんなにシミてもかまうものか。ふたたび痛みをこらえて大口を開け、ケチャップマスタードの部分を噛みちぎった。口中に悶絶を催すほどの激痛が走った。シミるなどというものではない。痛いばかりで味もなにもさっぱりわからなかったが、だましだましゆっくり咀嚼し、ゆっくりと嚥下した。次に飲んだ牛乳もまた、喉に刺さるほど痛かった。
 しかしここまで来ては、もはや引き返すわけにはいかない。ひと口、またひと口と悶絶しながら食べ進め、やがて完食に至ったわけである。大勝利である。

 アメリカンドッグ・ケチャップマスタード戦に完全勝利したぼくは、うがいをし、戦い終わってまだジンジン痛む口と喉を押さえつつ部屋の電気を暗くしてベッドに横になり、安らかな夜の時間を得ることができたのである。
 めでたしめでたしである。