前処置二日目

 雨である。窓から見える手賀沼がねずみ色に煙っている。
 前処置の抗がん剤が始まって二日目、まだ副作用は出ていない。出てくるのは一週間くらいたってからだろう。また高熱が出るのか、口や腸などの粘膜がやられるのか、その他のところにあらわれるのかわからないが、おそろしい。加えてタバコが吸えない事もあって、気分は陰々鬱々としている。

 この部屋に入って初日の深夜、ふと目覚めると見知らぬ爺さんがうんこをしていてびっくりした。「いや、トイレを探していたんだけどさぁ」と、爺さんはいちおう恐縮していたが、深夜にトイレの場所がわからなくなって、他人の部屋に入り込んで勝手にうんこをしてしまうようでは、かなりボケが進んでいるものと思われる。すぐに看護婦がやってきて平謝りに謝っていたが、眠かったのでそのまままた眠ってしまった。

 ぼくのほうの前処置がはじまり、ドナーさんの方も順調に進んでいるらしいので、ここまできたらもう移植の日程が変わることはない。予定通り十三日に行われる。
 移植は、僕の方は普通の点滴と同じように骨髄を入れるのでどうということはないだけれど、ドナーさんの方は大変である。前日から入院して全身麻酔の下で骨盤に四、五十カ所も穴をあけ、一リットルもの骨髄を採取するのだ。その後も二、三日は入院となる。その間仕事を休んでも休業補償もない。完全なボランティアである。
 そういう奇特なひとがいてくれるから、われわれは命をつなぐことができるので、ただひたすら感謝である。
 ともあれ、移植まで一週間を切った。