友だちがやってきた

 九月に入って朝夕めっきり涼しくなった。
 裏の森は高原のような空気に包まれる。いきおいミズキの下に居る時間が長くなる。ほんとうに気持ちが良い。

 このところ、夜ぐっすり眠れるようになってきた。
 夜十時には寝て、朝六時すぎの検温で起こされるまでずっと寝ている。苦節五か月にしてようやくここでの生活に慣れてきたのだろうか。こんなことは何年ぶり、いや何十年ぶりだろう。今までは、家にいるときも眠れてやっと五時間くらいで、その間にも何度も目が覚めるような睡眠だったのだ。

 午後から友だちがお見舞いに来てくれた。
 高校時代の友だちなのだが、神奈川県の遠くからわざわざ足を運んでくれて、お見舞いまでいただいてしまい、恐縮の極みである。友だちとはかくもありがたいものかと、ひとしきり談笑した後、去りゆくタクシーに合掌した。

 部屋に戻ってきたら、ちょうど外科の先生がやってきた。やっとである。ちょちょいと診て、しりは特に問題なしということですぐに診察は終わった。
 そのほかにはソーシャルワーカーさんも部屋に来たし、リハビリも急きょ入った。これは、無菌室へ入る前に筋肉量や体力を測定しておいて、なるべくここから落ちないようにしましょうということで、今後は週に二度ほど無菌室でリハビリトレーニングをやるのだそうだ。無菌室で半寝たきりのような生活をしていると、著しく体力が衰えてしまうらしい。最後にぼくの嫌いなエアロバイクを漕がされてくたびれてしまった。

 そんなこんなでバタバタと忙しい一日が終わり、またミズキの下へ行った。森はもうすっかり虫の音に包まれていた。夜の森や木々は、生きものを落ち着かせ、眠りへといざなう物質を発しているような気がする。そんなミズキも、葉っぱのようすが少し変わってきたようだ。夏前の元気な緑から、紅葉し、やがて落葉する準備に入っているように見える。
 ぼくがここへ来れるのも、あと一日である。無菌室から出てくる頃には、すっかり葉を落しているのだろうか。
 宵の森を抜けてくる風が頬に心地よかった。