うつろい

 749号室にメンバーチェンジがあった。
 僕の向かいにいたオーハシさんがまず一般病室へ移動していった。
 移植後で大分具合が悪そうだったのだけれど、経過としては順調なのだろう。まあおめでとうである。
 そして、オーハシさんがいたところ――僕の向かいの窓際――に、それまで僕の隣にいたよっこら氏が移動した。よっこら氏のひとり言及び入れ歯カタカタ音は、今までのすぐ隣より若干物理的距離が長くなった分、僕の受けるストレスは低くなったものと思われるので、よし。
 空いた僕の隣には、新しくムナカタさんというひとが入ってきた。
 声だけ聞いていたらしゃがれ声でかなりの年配者のように思われたが、挨拶をしたら僕よりずっと若そうであった。奥さんと思われるひとが付き添って来ていたが、その声も確かに若かった。
 ムナカタさんは、なにやらずい分と身体が弱っているようで、普段の生活は車椅子のようだ。
「トイレまでは車椅子なしで行けますか?」
 という看護婦の質問に、
「はい。大丈夫だと思います」
 と答えていた。彼のベッドはこの部屋でいちばんトイレに近いのだ。奥さんが帰ってからは寝ながら、うーん、うーん、とうなっている。このひとは大丈夫なのだろうか。

 僕はあと六日でこの部屋を出る。だからどうでもいいといえばそうなのだけれど、まあそういうメンバーチェンジがあったのだ。
 オーハシさんは朝顔を見ても挨拶もしない人で、サダセーネンも来た当初は話もしたが、オーハシさんにならってか、いつの間にか挨拶をしないようになってしまい、なんだか挨拶もない重苦しい部屋の雰囲気になっていたので、ここらでちょっとメンバーチェンジがあった方がよかったのかもしれない。唯一挨拶らしいことをするのはよっこら氏だけなのだが、彼は僕にとってはストレス源なので、できれば口を利きたくないのである。

 そしてサダセーネンであるが、かわいそうに今回の治療の中で大腸がんが見つかってしまったらしく、白血病の治療の前にまずその切除の手術をしなければならないらしい。手術日は九月一日とのことで、成功を祈るのみである。一度、彼の家族を見かけたことがあるが、子供たちも聡明そうで、なかなかいい家族だなあと思った。あんないい家族なのに、降って湧いたように父親がふたつものがんに見舞われてしまって、なんだかほんとうに可哀そうなのだ。
 そしてサダセーネンは、大腸がんの手術後は外科病棟へ移るそうである。

 午後、薬剤師のひとがやってきて、これから使う薬の説明をしてくれたのだが、あれやこれやと種類が多すぎてまったく頭に入らず、「はぁ、はぁ……」と情けない返事を繰り返すのみであった。今、僕の薬はみな看護婦さんが管理してくれていて、朝昼晩と寝る前と、それぞれ別の箱に毎朝分けて入れてくれる。なので量が増えようが減ろうがおまかせなのだ。便秘や下痢の薬とって治療のための薬では、「それはいりません」などと口をはさめもしないので、僕は箱に入った薬をただ言われるままに飲むばかりである。それにしても、点滴と合わせてその種類の多さにはびっくりした。

 ともあれ、時のうつろいと共に、この部屋の住民もうつろい、そして僕自身もまたうつろってゆくのである。