本日も何ごともなく

 今日も一日、何事もなく、何事もせずにすごした。谷崎をちょっと読んだが、なかなか話の中に入り込めなかった。
 こうして日に何度かミズキにゆくばかりの無為な日々を過ごしていると、自分が倦んでゆくような気になるものである。病気なのだからここで黙って過ごしているのが仕事だといえばたしかにそうなのだけれど、何かしていないと落ち着かないのは性分なのだろうか。

 よっこら氏のいなくなった749号室はいたって静かで落ち着く。
他の二人――サダセーネンと、イーダさんと入れ替わりに新しく入ってきたオーハシさんはいたって大人しいので、病室は昼間でも物音ひとつせず、たいへんよろしい。かといって二人とも人ぎらいという風ではなく、話しかければしっかり会話に応じてくれるのでありがたい。というよりも、そのくらいがおそらく世間の通常で、よっこら氏があまりにも一日中ひとり言を言い過ぎるのだ。それでいて他人との会話はほとんどしない。変わったひとである。今日の晩にはまた戻ってくる予定なので、明日からまた、よっこらしょどっこいしょを一日中聞かねばならないのかと思うと気が重い。
 オーハシさんは今が抗がん剤の真っ最中で、熱発して苦しそうにしている。可哀そうだがどうしてやることもできないので、ただ見守っているばかりである。
 彼はまだ若く、三十代とみえる。頭がつんつるてんで僕とおそろいだ。ひとつおいて並びの一般病室から移ってきた。以前から互いに顔だけは見知っていたので、つんつるてん同士で若干の親近感がある。早く熱が下がるといい。

 僕のつんつる頭は、相変らずともぞう状態なのでわかりづらいが大分毛が戻ってきた気がする。しかしいつまた抜けるかわからないので、まめに刈ってやらねばならぬ。オーハシさんも髭剃りでジージー刈っているらしく、つんつる族もなかなかたいへんである。

 月曜日には市役所の生保のひとがやってきて面談をする予定になっている。マンションがやっと売れ、車も売り払ったのでやっと申請にこぎつけることができるのだ。はやくこちらも決まってくれないことには気がかりで、落ち着いて無為な日々に集中することができない。

 僕の入院生活はここまで約四か月、しかしこれからが本番なのだ。