抗がん剤二日目

 三時半起床。
 うつくしい夜明けであった。関東もやっと梅雨明けしたらしい。
 東の空が紅く染まり、手賀沼が銀色に光った。頭上には三日月が白く光り、そしてヒグラシが鳴いた。
 二百円の特上コーヒーを手にそんな景色を眺めていたら、昨日のひどい心のささくれが、いっとき癒されていく気がした。

 抗がん剤治療二日目。
 一日目はいきなりしゃっくりから来た。十回連続痙攣の後呼吸困難に陥るというあれである。そのほかは今のところ何もない。まだまだこれからこれから、治療は始まったばかりであるのだ。最大の難関、熱発はいつ訪れるのか、不安である。

 今日は大きな取引が一件あるのだ。病室でどこまで対応できるかわからないが精いっぱいやるのみ。もう一件小さな取引もあるが、これは書類が自宅にあるのでどうにも先へ進まぬ。母親に頼んで持ってきてもらわねばらちが開かないのだが、その肝腎の母親に連絡が取れぬ。
 もっと小さな、というかいやな取引もあるが、それは放置。今日は放置。いや、今日「も」放置。すまん。

 それら取引の度に何度も電話場まで足を運ばねばならぬ。
 ポンプの電源コードを抜いて、マスクをして、ノートとペンと電話を持って、部屋を出て。途中でポンプがぴんぽこぴんぽこ鳴る、それに対応する、また鳴る、また対応する、また鳴る……。蹴り倒したくなく気持ちも察してもらえようものだ。
 今日こそは、落ち着いてしっかりと、ひとつひとつこなしていければよいと切に願う。