おかえりなさい、イーダさん

 朝から曇っていた空が昼過ぎに泣きだした。
 梅雨時期にほとんど降っていなかった関東なので、ちょっとは降ってもらわないとお百姓さんやダムが困るだろうから、今日の雨はよい雨なのだ。ミズキに行けないのはちょっと不便だが、そのくらいはがまんしよう。いざとなったら傘があるのだ。
 
 さて、ここしばらく三人部屋となっていた749号室にイーダさんが戻ってきた。彼は一時退院して、戻ってくるときには一般病棟へというはずだったのだけれど、ここが空いていたので変更になったのだろうか。ここしばらく陰々欝々とした雰囲気の病室が一気に明るさを取り戻した。
 人には陰な波長をもつ人と、陽な波長をもつ人とがいるが、このひとは陽なのである。サダセーネンも陽だがそれを周囲に発散するタイプではないので、ほぼ無にちかい。逆に、よっこらは一見明るいようで、じつは陰である。そして陰のくせにひとり言が多いので、何か口にするたびに陰波長がどぼーんどぼーんと押し寄せてくる。それ以外のときは、一日中、ほぼ起きている間中入れ歯をカタカタやっている。そのごくわずかな、それでいて切れ間なく続く音は、しまいにかなり心を陰逆撫でされるわけである。
 ともあれだ、無と陰しか居なかったところへ、陽のイーダさんが戻ってきてくれてたいへんうれしい。
 おかえりなさいイーダさん。