サダセーネンはジエータイであったのだ(抗がん剤1日目)

 昨夜、ふとベッドから窓の外を見ると、中天に満月のおぼろ月が輝いていた。他の星がまったく見えない夜空のおぼろ月というのも、なかなか趣深いものだ。ベッドに居ながらにしてこんな風流が見えるというのも窓側へ移動してもらったおかげである。ありがたや。
 と思ったら今日は雨だ。午後からはやむ予報であるが、まだやまない。
 
 今日から予定通り三回目の抗がん剤治療がはじまった。今回は地固め療法の二回目となる。前回は真っ青な点滴でびっくりしたが、今回は真っ赤な薬で、これまた驚いた。そして前回の緑色の小便同様に赤い小便が出た。しかしどうして抗がん剤というのはこういう毒々しい色をしているのだろう。強い薬なので、間違っても間違えないようにという配慮なのだろうが、そのうちに金色やら銀色の薬を注入されそうである。
 さて抗がん剤がはじまったということは、僕はまた電源コードと重いポンプのくっついた点滴棒に何本もの管でつながれたわけで、また五日間の試練である。しかし今回は窓からの景色がいつでも見られるので、ミズキに行く回数も減るだろう。あ、ミズキはじつは白木蓮であろうと判明したのだが、今までミズキミズキと呼んでいたので、今後も勝手にミズキと呼ぶことにする。
 
 さて、749号室の新人のサダセーネンであるが、若く見えるがじつは四十五歳であることが判明した。そしてなんと自衛隊パイロットであったらしい。すごい人が来たもんだ。しかし自衛隊さまなら集団生活には慣れているだろうし、規律規則も徹底しているのだろうから、他人に迷惑になるようなことはしないだろうと思われる。というか、迷惑どころか、なにやらさすがにピシッとしていて気持ちがよい。
 思うにこれはベッドというか、ベッドの位置というか、そのせいかもしれない。サダセーネンが入った場所は、かの仙人タカハシさんがいた場所である。そしてファンキーK氏が入った場所は、僕と交代はしたものの、マシンガン氏・くそジジイ氏、そしてファンキーK氏であるので、もう伝統的にややへんてこな人が入ることになってしまっているようである。ファンキーK氏は、相変らず今日も、何をするにもひとつひとつの動作にひとり言を言っている。しかしなんだかだんだんそれにも慣れつつある。氏の場合は、まったく悪気や嫌味がないので、カラッとしているのだ。たしかに耳障りではあるのだが、波長がカラッとしているので慣れることができるのかもしれないと、僕は推測した。
 
 イーダさんは、今月末には一時退院してしまう。さみしいが、それはおめでとうなのだ。しかし、そうするとまたそこに新しい人が入ってくる。入れ代わり立ち代わりである。やはり、誰がいようがいまいがまったく我関せず挨拶もせずという、くそジジイ氏並みの無関心さと図太さを身につけねばそういうことで一喜一憂することになってしまうのかもしれない。
 
 ともあれあと一週間ほどはこの四人のメンバーで固定されたようである。くそジジイ氏がいなくなったので朝の懇談会がまた再開された。サダセーネンもすこしそれに加わった。
 ま、みなさん仲良くやりましょうやね。あたくしもなるべく気を付けてメイワクにならないようにしますからね。