ファンキーKと、しり事情

 昨夜は朝まで窓のカーテンを開けたままにした。点々と光る手賀沼にかかる橋の明かりと夜の森が、居ながらにしてベッドの上から見渡せ、僕はたいへん満足であった。やはり人間暮らしてゆくには窓は必要欠くべからざるものであると、しみじみ実感したのであった。
 しばらく見なかったうちに、森の緑はすっかり色を深めていた。もう梅雨なのだものなあ。これからは雨のたびに緑はさらに色を深め、草も木もどんどん成長するのだろう。そんな様子を、これからは毎日窓から眺めていよう。

 その後のしり事情は、新しく処方してもらった座薬と錠剤が功を奏し、この四日間は毎朝順調な通行をみている。まだ若干の通行障害はあるものの、それも日に日に、少しずつではあるが回復してきているので、ありがたやありがたやである。
 そして昨日で、毎日六時、十四時、二十二時の三回入れていた抗生剤の点滴が終了した。もうじゅうぶんに血球も増えて、抵抗力もついてきたでしょうからいいでしょうということである。
 かくして僕は、点滴からはオールフリー状態になったのである。といってもすぐに来週からはまた、「抗がん剤点滴フルつながり状態振り出しに戻る」なのであるが、三週目の「ひとときの自由」なのである。
 
 さて、749号室の新メンバーであるカワムラさんはいかなる方であったのか……。
 ひとり言が多い。はげしく多い。
 「よっこらしょう」とか、「なんだこりゃ、まいったな」であるとか、「どうしようもねえなこりゃあな」などと、ひっきりなしにカーテンの向うから聞こえてくるのだ。それも小声ではない、会話レベルのボリュームであり、すでにひとり言の範疇を若干超えている。
 そして夜は、おそらくテレビで野球かなにかをご覧になっていたのだろう、「よおし、そこだ、いけっ」やら、「やったぁ、ぎゃはははっ!」などと騒々しいこと尋常ではない。このテレビ観戦の際は、ご本人はイヤホンをつけているからなのか、ひときわ声のボリュームが大きくなるのだ。しまいには手まで叩いての大興奮応援ぶりなのであった。
 気さくでフランクなのはよいのだけれど、少々ファンキー過ぎるようであるので、僕はひそかに「ファンキーカワムラ」と呼ばせていただくことにした。ファンキーK氏である。
 
 ファンキー氏は、聞けばやはり僕と同じ白血病のようであるが、まだ一回も抗がん剤治療をしていないとのことであった。このクリーンルームのベッドの空き待ちであったのか、それともよほど全身状態がわるい状態で入院してきたのか。ファンキーな割には食欲もなく、顔色も土気色である。少々心配であるが、まあこの749号室は幸運の部屋でみんなよくなってゆくので、そのうち元気になってくるだろう。
 
 僕は明日から外泊に出てしまうが、月曜日にもどってきたときにこの部屋がどういう状態になっているのか、少々こわくもあり、また楽しみでもあるのであった。