あれ? もう外泊ですか?

 昨日、梅雨なのに雨はどこへ行ったのかと言ったら、今日は朝から雨になった。窓から見る手賀沼もねずみ色に煙っている。
 しかしこの雨も夜には止んで、明日は晴れ間がまた戻るらしい。今年の梅雨はカラ梅雨なのだろうか。こういう年に限って後半にまとまってドカッと降ったりするので要注意である。
 
 どうやら隣のジジイは明後日かそこらに一般病室へ移動になるらしい。またぶつぶつなにやら文句を言っていたようであるが、よかったよかった、おめでとう。はやく出ていってくれ。
 しかし隣は入れ替わりの激しいベッドである。しかもここ二人は、いずれも共同生活にはいまひとつなじみがたい面倒な人が続いた。
 ジジイが去ったら僕が空いた窓際へ移動させてもらえぬものか、ナースステーションにお願いに行ってきた。それを決めるのは看護婦ではないのだけれども、「伝えてみます」とのことであった。前回、このジジイが入る時には僕のお願いのタイミングが遅く、すでにジジイが窓際に入る手はずに決まってしまった後だったので間に合わなかったのだが、今回はどうだろう。すんなり移動できればうれしいのだけど。
 もし窓側に移動できたら、毎日ずっとカーテンを開け放って木々や手賀沼を眺めていられるのだけどなあ。
 
 午後、今日の血液検査の結果を持って主治医がやってきた。
「千葉さんは、僕の想定の中での最高の経過でここまで来ています。一回目で寛解にも入りましたし、今回も血球は順調にあがってきていますから、今週にでもまた外泊しますか?」
 ときた。
 今週ですか? それはまたずい分急な話で……。
 
 前回の外泊は治療後四週目だったから今回もすっかりそのつもりでおり、まさか三週目とは思わなかった。どうやら血球の回復が早いし副作用なども少ないので、早め早めに血球を叩いておくという主治医の新作戦らしい。
 それも今度の水曜の血液検査の結果次第ではあるのだけれども、そうなるとやはり外泊は週末がよろしいかと思われるので、主治医にはそうお願いしておいた。
 外泊はまた、横浜、新宿、柏コースとするか。そして金曜から行って月曜の朝に病院にもどり、そのまま地固め二回目の抗がん剤開始となるのだろうか。いずれにしても、またタイトなスケジュールのバタバタ外泊となるのだろう。
 しかし何はともあれ、経過がわるいと言われるよりは、よいと言われたほうが断然いいし、外泊が多いのもうれしいのだけれども、だからといって僕の病型がよくなったわけではないし、本番の移植はまだまだこれからなので、このくらいでぬか喜びをしてはいけないのだ。
 
 ところで、最近PCでとある作業をはじめた。
 するとすっかり時間が経つのがはやくなった。作業に集中していると、「あれ? もうひるめしですか?」、「もうばんめしですか?」と、配膳がきてあわててせまいテーブルの上を片づけるのであった。
 長い人生の間で、今ほど何か月もやることもなく過ごせる時間というのは、そうそう誰にでもあるものではない。これを無駄にする手はない。さいわい両手両足とも入院前よりはるかに元気に動くのだし、移植までにはまだ間がある。
 それをやったからといって、すぐにどうなるというものでもないが、まあ人生の糧というか、そういうことをせねばと思い立った次第である。
 
 しかし一日が経つのがはやいということは、日にちが過ぎるのもはやくなったわけで、先週、先々週のことが昨日のことのような気がするようになった。ただ単にボケがはじまっただけかもしれないが、いずれにしても、そうなると移植までのあと二、三か月などというのもあっという間に過ぎ去ってしまうのかもしれない。うかうかしてはいられない。せいぜい精を出して作業に取り組もう。
 まあ、やることが見つかっただけでも救いである。
 
 日が暮れて、どうやら天気予報どおり雨はあがったようである。
 雨上がりの森の空気でも吸いに行ってこよう。