しり事情続報

 はやいもので、入院してから昨日で二か月が過ぎた。
 病室暮らしにもだいぶ慣れ、あれこれミンザイを工夫しながらではあるが、夜も眠れるようになってきた。しかしまだまだこの先は長いし、本番というか山場はこの後にひかえているのである。
 
 昨日はあれこれと忙しく、母親が突然やってきたり、うずらのようにぽつぽつ伸びかけた髪を刈ったり、ソーシャルワーカーさんと面談したり、看護婦にしりの穴を見せたりしていた。
 
 他人にしりの穴を見せるのは、ほとんど赤子のころ以来ではないかと思う。見るの見せるのといっても、へんてこプレイではなく、あくまで純粋なる医療行為であるのだが、そうはいっても僕にも若干の羞恥心はあるので、若い女性に対して好んで見せびらかすものではない。見せてくれというので仕方なく見せたのであるが、見せながら僕は考えた。
 他人にしりの穴を見られるほうと見るほうの、どちらが嫌かといえば、見るほうが嫌なのではないだろうか。それが仕事とはいえ、好んでジジイのしりの穴など見たいと思う者もあまりいないと思われる。
 そう思うと、なにやら勇気がわいてきて、「おらおら、おれのしりの穴をみろごるあ」的気持ちになった。
 
 おっと、話の本題はしりの穴ではなく、しり街道のほうであった。
 今朝がた、一大苦労をして二十台ほどの車両通過をみたのであるが、それで終わりではなかった。小一時間ほどしたらまたなにやら通過待ち車両の気配を感じた。
 またあの苦労をするのかと思うと通過作業も躊躇されたのだが、ここでひととおり通過させておかねばと思い直し、ふたたび作業に挑戦し、激痛をこらえてさらに十台ほど通過させた。
 ふう、やれやれと痛むしりをかばいながら手を洗っていたら、なんとまたもや気配が……。
 もう嫌ですよ、勘弁してくださいよと思ったが、敵は勘弁ならんという。仕方なしに三たびトイレに入って作業である。しかし大型中型四トン二トンはあらかたすでに通過していたので残るは軽貨物程度のものが少々であったので、そこはすこし助かった。
 
 なぜ今朝にかぎってこれほどの車両が通行するのだろうと思ったら、昨夜、新しい薬をもらったのだ。
 アミティーザというオレンジ色のものである。これに、今まで飲んでいたピコスルファートナトリウムという目薬のような容器に入ったもの。これは十五滴から二十滴を調節しながら水に溶かしてと書いてあるのだが、今までそんなものでは効きもしなかったので、ええい面倒だとばかりジョジョジョッと三十滴くらい飲んだ。
 さらにこれも今までどおりの、マグミットという便をやわらかくするという薬の、計三種を昨夜飲んだのだ。そのおかげで今朝の街道開通大量通行となったわけであるので、まさに三種の神器である。とりあえずめでたい。
 
 これでしり口さえ痛くなければ完全無問題の万々歳なのだが、残念ながら痛くてしようがないので、これも新しく処方してもらったネリプロクトという座薬と、強力ポステリサンという、なにやら木曽のナカノリサン的タイトルのチューブ薬を使っている。
 つまりしり口のために二種、通行のために三種の、計五種の薬を使っているわけで、なにやら薬まみれな僕のしり事情なのであった。
 それもこれも抗がん剤の副作用なのだが、主治医は、「移植のときはもっとひどくなりますよ」などと脅かす。「それにはあらかじめ対処します」というので信用しているのだが、たのみますよ主治医先生。
 ともあれしりは見られるわ痛いわ、薬は五種類も処方されるわで、しりのために入院しているような気分なのである。