じいさん、それはあかんやろ

 きっちり二週目の最終日で白血球数があがってきた。
 当初(抗がん剤初日)三千三百あったものがいったん五百まで下がり、今回上昇に転じて九百まであがった。これで谷は過ぎたので、この後は上昇してくるはずである。
 といっても正常値の下限は三千三百であるので、上がったといってもほんのわずか、まだまだ桁がひとつ違うのであるが、血小板の輸血はこれにてめでたく終了となった。
 わたくしに血小板をくださったご献血のみなさん、ありがとうございました。
 
 さて、話はいきなりジジイにとぶ。
 ジジイはあいかわらず一人でいるかのように誰とも口をきかない。
 それはまあよいのだが、ジジイ今朝は五時四十二分に窓のカーテンを勢いよくシャーッと開け放った。
 いやいやいや、じいさんそれはあかんやろ、まだ起床時間前ですやん。イーダさん寝たはりますやん。
 今日は非常に天気が良い。したがって北東向きのこの病室でカーテンを開けると、一気に朝日がまぶしく射し込むのだ。
 起床時間は六時である。前述のとおり、もう一人の窓際の住人であるイーダさんはまだ寝ている様子であった。それをアンタ、断りもせずにカーテンを、しかも音も高く勢いよく開け放ったら、そらじいさんあかんやろ。勝手もええかげんにせえや? アンタひとりの部屋ちゃいまんねんで? 開けるならせめて、「イーダはん、起きたはりまっか? ほかのみなさんはどないでっしゃろ。えらいすんまへんが、カーテン、すこーしだけ開けてもよろしおますやろか?」と小声かつ遠慮がちにオウカガイを立てなあかんちゃうんか?

 わしは、このジジイの勝手きわまりないふるまいが許せなかったので、「まだ起床時間前ですやんか、閉めまっせ」と言ってカーテンを閉めた。ジジイは自分のカーテンの奥で無言であった。あんたは貝か。
 
 思わず関東関西主語数種が入り混じってしまったが、そんなわけで、ジジイは無口無言であるくせに、いろいろやってくれるのであった。
 そして六時を十五分ほど過ぎたころ、僕はすたすたと窓際へ歩みより、カーテンを半分ほど開けた。もちろん、「開けてもいいですか?」と断ってから。
 雲一つない青空であった。
 ほんとうは僕も、窓にかぎらずすべてのカーテンは開け放っておいたほうが好きなのだ。