外泊はバタバタ忙しかったのだ

 二泊三日の外泊がバタバタとあわただしく終わり、僕は自ら病院に出頭し、ふたたび収監された。ひさしぶりに自分のベッドにどてっと寝転んだらほっとした気持ちになり、「病院もわるくないな」と思った。
 
 外泊初日の朝は、前日の雨もすっかりあがって五月晴れだった。道路は空いていて、病院を後にした僕の車はどんどん走って二時間ほどで父親のもとへ着いた。
 父親は特養という施設に入っている。頭はまだしっかりしているが、身体のほうはもうずいぶん弱ってしまって、今ではつかまり立ちすら一人ではおぼつかなくなり、車いすとベッドの生活をしている。要介護度は最高ランクの五だ。
「なんだ、来てたのか」
 部屋へ戻ってきた父親は、僕の顔を見るとそう言った。父親が食事に行っている間、僕はおどろかそうと思って父親の部屋で黙って待っていたのだ。
「うん。久しぶり。たいへんそうだな」
「そうなんだよ。ここを曲がるのがたいへんでな」
 すっかり痩せ細った父親は、部屋の入口で車いすを動かすのに苦労していた。

「こないだ墓を見てきたよ。いいところじゃないか」
「そうか、うん」
「オヤジより先に墓に入らないように気を付けないとな」
 僕が冗談にそう言うと、
「そうだよ、おまえ、元気にならなきゃだめだぞ」
 と父親が笑った。
 帰りぎわに父親の手を握ったら、すっかり骨ばって冷たかった。
「また来るからな。おれもがんばるから、オヤジも元気でな」
 そう言って部屋を後にした。
 
 それから母親のところへ行き、夕食を外で共にした。この日は焼き鳥屋であった。父親と一緒だったころにはほとんど外食をしたことのなかった母親は、外食ならどこへ行っても喜ぶのであった。
「まあ、これ、珍しい。おいしいわ」
「これもきれいでおいしい」
 何を食べてもおいしいおいしいである。
 しかし今ごろになって母親と焼き鳥屋などに行くとは思わなかった。
「オヤジ、オフクロのことをすごく心配してたぞ。あれは今一人ですごくたいへんな思いをしてるんだ。何でもかんでもやらせちゃだめだ。雨降りでもなんでもでかけようとするから、止めなきゃだめなんだ、と言ってたよ」
「あら、そう? 大丈夫なのに」
 母親は足腰もまだしっかりしているので、あちこちよく出かける。父親が施設に入ってからは、家のあれこれをぜんぶ一人でやっている。今回は僕と同じアパートに引っ越すので、さらにまたひと苦労だ。もともと身体が丈夫ではなかったから、父親は心配なのだろう。
 僕は二か月以上酒を一滴も飲んでいなかったのですっかり弱くなり、二杯目のジョッキをすこし残した。
 
 翌日、新宿に寄ってから千葉のアパートに帰ってきた。もともとあまりきれいにしていなかった僕の部屋は、洗濯物もそのままにあれこれあわただしく病院に持って行ったままになっていたので乱雑で落ち着かなかった。
 コンビニで食事とビールを買ってきた。
 
 夜、彼女と会うことになったので、ふたたび新宿まででかけた。
 先日、病室に突然あらわれたときもそうだったが、彼女はすっかり髪が伸び、すこし痩せたように見えた。
 むかしのように小滝橋通りのバーに入り、僕はビールとテキーラを、彼女はソフトドリンクを注文した。
「あたしたちって、なんだかくっついたり別れたりしているわよね」
「そうだっけ?」
「ずっと前だって、ほら……」
「ああ、そうか。そうだな」
 バーのカウンターのほの暗い灯りと、少しの酒が僕の気持ちをほぐしてくれた。ポップコーンをぽりぽりつまみながら、僕は落ち着いたやさしい気持ちになった。前回、病院での会話はちょっとぎくしゃくしていたが、ここでは彼女もすっかりリラックスしていた。
 どうやら僕らは復縁したようであった。
 
 深夜二時ころに彼女と別れた。千葉へ帰る高速道路をのんびり走りながら、
「こういう日がまた来るとはなあ、まさか思わなかったな……」
 と思った。
 人生の流れというのは、ほんとうにどこでどうなるかわからないものだ。
 四トン車が、猛スピードで僕を追い越していった。