は? ガイハクですか?

「千葉さん、血液検査の結果が好調なので、来週の月曜日に骨髄検査をして、その結果がよければ外泊してもいいですよ」
「は? ガイハクですか? ガイシュツではなくて?」
「はい。外泊です。あくまで検査結果がよければ、ですが」

 今朝採った血液の検査結果を持って主治医がそう言った。
 いや、ガイシュツはお願いしていたが、ガイハクは思ってもみなかった。
 以前、家からあれこれ持ってきたい物があるので一時間程度でいいから外出をさせてくれないかと聞いたときには、「きびしいですね。肺炎などに感染するのを覚悟して行くかです」との答えだったので、まさか外泊の許可を、しかも主治医のほうから言いだすとは夢にも思っていなかったのだ。
 なのでとまどった。いきなり外泊といわれても、アパートに帰っても誰もいないし、きたない部屋でメシはないし、当面必要なものはこないだイーダくんが持ってきてくれてことは足りているし……。
 まあしかし外泊してよいというものを断る理由もなかったので、「そうですか、ありがとうございます」と答えておいた。
 そして僕は、こう続けた。
「まだ決めたというわけではないのですが、気持ちは移植に傾きつつあります」と。
「そうですか。では外泊から帰ってきたら詳しくお話をしましょうか」
 きびしい話になりそうである。これまでとちがって移植の実際のきびしさや、それに向けての心構えや覚悟などといった話になりそうで、今からややおそろしい。
 
 主治医が帰ってから考えた。外泊できるなら、父親の顔を見に行こうかと。
 僕の父親は去年から特養に入っている。頭はまだしっかりしているが、身体のほうはどんどん弱ってきており、もう自力ではつかまり立ちすらおぼつかない。僕のほうは病気でこんな具合だし、今会っておかないと次はいつ会えるかわからない。万が一のことがあればこれが今生の別れにもなりかねない。
 
 父親は言葉の少ない人である。僕がどんなに好き勝手なことをしても、結婚しては離婚を繰り返しても、商売に失敗して借金まみれになっても、いつも黙って何も言わなかった。僕の病気のことを聞いても、「そうか」と言ったきり、ただじっと黙っていたそうだ。子に無関心なのとはちがう。そういう昭和ヒトケタの男なのだ。
 会って余計な事を言うつもりはない。ただ、今、父親の顔をしっかり見て、言葉を交わしておきたいと思ったのだ。