脱毛がやってきた

 今朝、シャワーに入っていたらやたらと髪の毛が手や身体にまとわりついた。自分の毛とは思わなかったので、きっとあのオヤジの後に入ったからに違いない、気持ちわるいなあ、と思った。シャワーからあがってもタオルにまとわりつく、しまいにベッドまわりでもちらほら毛をみつける。
 午後になってからふと思いついて自分の髪を掴んで引っ張ってみた。するとなんと、ごそっと抜けるではないか。びっくりした。
 
「ついにきたか……」

 抗がん剤の副作用さまめである。
 副作用にもさまざまあって、脱毛や吐き気、歯ぐきから血が出る、下痢をするなどなどいろいろなのだ。
 僕は今日で一回目の抗がん剤治療を終えて一週間ほどになるのだけれど、治療中に高熱が少し出ただけで、他はこれといった副作用はこれまでなかった。くわえて血液検査の結果、炎症値も下がってきたというので一日三回の抗生剤の投与も昨日で終了した。なんだ、たいしたことはないではないかと舐めていたら、じつはこういうのは後攻めでじわじわとくるのもあるのだと初めて知った。副作用さまさまめである。
 
 まあ僕は男だし、以前はスキンヘッドにしたり御前さま刈りにしたりしていたので、髪などはあってもなくてもどうということはないのだが、副作用さまはやっぱり確実にくるのだということがすこしだけショックである。そして自分の意思でなくそのせいで強制的に御前さま刈りにさせられるというのも若干しゃくにさわる。
 夕暮れ時に散歩に出たコンビニの駐車場で、御禁制のタバコを一服しながら髪を抜いては風にそよそよ飛ばして、ひとり心のなかで「うーむ」とうなった。
 
 髪が抜け始めたのはたしかに若干のショックであったが、昨日の日記にも書いたとおり、今の僕には髪が抜ける抜けないよりも骨髄移植をするかしないかのほうがはるかに重大事である。副作用の脱毛などは治療が終わればまた生えてくるのだ。
 さいわいこの病院には「がん相談支援センター」というのがあるので、明日にでも行って相談してみようと思っている。ドクターとはまた違った側面から何らかのアドバイスが得られるかもしれない。
 
 あ、待てよ? そのことで悩んだから髪が抜けたのかな。
 いや、そんなことはない。これは間違いなく副作用さまめの御出座にちがいないのだろう。
 入院生活というのはヒマはおおいにヒマなのだけれど、ヒマな中にもいろいろと考えたり悩んだりすることがあるものである。