入院二週間目

 今日は朝からしょぼしょぼと雨が降っている。
 雨の日というのは、生きとし生けるものみな眠くなるようにプログラムされているのだけれども、僕は昨夜どっぷり眠れたので今日はさほど眠くないのだ。
 
 ぼちぼち入院して二週間になるのだけれど、ぐっすり眠れたのは昨夜がほとんどはじめてのことである。僕はもともと入院前から眠りについてはなかなか難しく、早期に目が覚めたり、夜中に何度も目が覚めたりしていた。そこへもってきて入院という大きな環境の変化によるストレスもあって、入院してからこのかた眠ろうと思ってもうなされたりしてなかなか寝付けず、寝付いたと思ったら毎晩夜中に点滴をつけたりはずしたりされ、ほとんどゆっくり眠れたことがなかったのだ。
 そこで精神科のドクターと相談をして、あれこれミンザイを工夫してもらってようやくの熟睡である。眠れるというのは貴重なことだ。願わくば、この熟睡が毎晩つづいてほしいところだ。

 さて、僕は入院二週間目で毎日何をしているのかといえば、とくだん何もしていない。最初の抗がん剤治療七日間がおわり、次の抗がん剤まで三週間くらい間があくのだ。抗がん剤を入れているときは高熱が出てまいったが、今はすっかりそんなこともなく、あいかわらず血は薄い状態がつづいているのだけれども、入院前よりずっと元気である。毎日抗生剤やら輸血やらの点滴はあるが、それ以外は何もせず、ただめしを食って、パソコンをいじって、ちょっと電話などして寝るだけの毎日である。唯一、一日中クリーンルーム内にいることを強いられるのが不便なだけだ。ほんとうは隙をみてちょくちょく抜け出しているのだけれど。
 
 入院前といえば、あれは今にして思えばけっこう深刻な状態だったのだと思う。この日記の最初のほうでもちょっと触れたけれども、まず動悸と息切れが尋常でなかった。階段を五段のぼっただけで心臓はばくばくし、はあはあと息があがり、歩けば百歩も進まぬうちに同じような状態になって、そのたびに立ち止まってはひと休みしていた。しかしそんな状況でも人間はなかなか自分は病気だとは思わぬもので、これは身体がなまっているだけだから、もうちょっと慣らせば元にもどるはずだなどと真剣に考え、そんな状態を一か月半も続けていた。ほんとうはその時点でもう十分発症しており、身体の抵抗力もへろへろに下がっておったのだろうから、あの時肺炎などの感染症にならなくてよかった。下手をしたら白血病もさることながら、感染症で命を落としかねない状態であったのだ。
 そしてその一か月半の間に状態はさらに悪化し、ばくばくはあはへろへろ度が増してきたので、さすがにこれはおかしいと思い、やっとのことでこの病院を訪れ、即時タイホ収監となったわけである。
 
 今度の土曜日に主治医との面談がある。遺伝子などのくわしい検査結果も出たところなので、いま一度僕のくわしい病型を聞き、これからの治療をどうするか、なにをどうするとどういう可能性がどのくらいあるのか、そういうことを聞こうと思っている。そして治療をどうするかは、それからじっくり考えるつもりである。
 今さら過酷な治療でリスクをおかしてまで生にかじりつくということもないだろうが、それでも何もしないというわけにもいくまい。
 窓の外の雨だれひとつひとつに、それぞれの落ちゆく先があるように、生きとし生けるものにもみなそれぞれの落ち行く先というものがあるのだ。