あるがまま、きゅうりがぱぱ

 本日午前十時、めでたく抗がん剤治療第一クール七日間が終了した。
 くそでかく、くそ重く、常に電源コードをつないでおかねばならなかった点滴ポンプがはずされ、僕の点滴棒は羽根のように軽く、鳥のように自由になった。
 まだまだこの先もクリーンルーム軟禁状態はつづくのだけれども、それだけでも大分心が軽くなったというものである。
 
 抗がん剤治療というと、副作用で吐き気がしたり、髪が抜けたりというイメージが強いが、今のところ僕にはそういうものは出ていない。ただ、七日間のうちの後半二~三日、三十八度~三十九度の高熱が出てまいった。解熱剤もあまり効かず、ひいひい言いながらベッドにへばりついていた。
 ドクターいわく、熱の原因は薬の副作用ではなく何かに感染したらしいということなのだが、何に感染したのかはよくわからないらしい。
 
 だいたいからしてこの病気はよくわからないことばかりなのだ。「血液のがん」などと呼ばれているが、普通のがんなら病巣というものがあって、「はい、ここがわるくなっていますね、見てのとおりですね」というのが病気の状態であって、「それではわるくなっている部分を切除しましょうね。はい、きれいに取れました」で一件落着となるのだが、白血病の場合は病巣というものがない。鬼ごっこの鬼がいないようなものである。いない鬼を探し出して退治するというのは至難のワザで、眼で見てもわからないので何度も何度も血液検査を繰り返しながら抗がん剤投与ということになる。
 
 原因も、いまだによくわかっていないらしい。そして治療の結果、治ったのかどうかというあたりも、わるい白血球が○パーセント以下になったら治ったということにしましょうよ的なものである。
 つまり、原因も、実態も、治ったかどうかも、あまりよくわからないのである。当然、治療をしていてもよくわからない。が、よくわからないままにあれこれと点滴棒に薬液をぶら下げられ、血液にどくどくと注入されるので、やがてにおのれの血液でありながら、すっかりあれやこれやの薬液と入れ替わってしまって、おのれのものではなくなってしまうような錯覚におちいる。

 そんな風によくわからないままに、やがてわるくすると「うーん」とうなったきり死んでしまうのかもしれないが、もともと人間の人生や、生き死になどというものもよくわからないものなのであるから、これもまたわかろうがわかるまいが、ただ淡々と、目前にあるものを、あるがままに受け入れていくしかあるまい。
 
 あるがまま、きゅうりがぱぱである。