ハッケツビョー? なんですかそれは??

 やたらめったらといそがしい三月がすぎて、ひと息いれていたらどうも体調がおもわしくない。その前にだらだらした生活をおくりすぎていたので、すっかりからだがなまってしまったせいかとおもっていたのだけれど、いっこう調子が上向かないのでおかしいなと病院へ行ったら、あれこれ検査をおえてから医者が、
「あなた、ひどい貧血ですよ。このまま入院です」
 と収監されてしまった。
 そうそう。なんだかやたらと動悸、息切れ、めまいがするのだ。

 しかし入院とはなんたる大げさなことかと思っていたら、翌日、病室に医者がやってきて、言った。
白血病です」
 
「なんですと? ハッケツビョー? それは、あの死んでしまったりするハッケツビョーですか?」
「まあ、そういう可能性もありますね」

 おれはしばしその意味を考えたが、その単語についてまったく詳しくないので、考えても無駄であることに気がついた。

 あまりおどろきはしなかった。
「ふうん、そうか……」
 というのが正直な実感だった。
 自分の人生については、もうたっぷりあれこれ好きなことをやってきたのであまり未練もない。不慮の事故や不治の病であるなら、それを素直に受けいれるだけの覚悟も日ごろからできていた。
 ただ、無理・無意味な治療・延命というのはいやだなと漠然と考えていた。死ぬのなら、むかしのじいちゃんばあちゃんたちがしずかに自宅の布団の上で息を引きとっていったような、往診のお医者がさいごの脈をみて、黒いカバンからペンライトを取り出してちらちらさせて、しずかに
「ご臨終です」
 と、そういう死に方がいいなと思った。
 
 それは病院のベッドの上でもよいのだけれど、いやむしろひとり者のおれは自宅にいては食事も満足にとれないので、そういう意味ではむしろ病院のほうがよいのだけれども、決められた人生の時間というものにはさからわず、動けなくなったり食べられなくなったりしたら、そのまましずかに死にたいと思った。
 
 さて、おれはほんとうに死ぬのだろうか。
 明日、主治医と今後の方針について話しあう予定になっている。主治医といっても若いあんちゃんなんだよな。ちょっとたよりない気もするが、中年のいばった医者よりもそのくらいのほうが話がしやすくてよいかもしれない。
 自分でもちょっとまじめにこの病気について調べてみよう。
 
 と、昼間でもあまり明るくないデイルームの大きなテーブルの前で考えた。